コラム

【2025年7月号】アイヌ文化への理解を深め、多様性や共生について考える
- #高校生のマナビバ
掲載号:2025年7月号
北海道平取高等学校では、独自科目「アイヌ文化」を導入し、地域のアイヌ文化継承者等の方々を講師に招き、アイヌの文化や歴史について、理解を深める授業を行っています。地域の力を活用し、アイヌ文化の学習を系統的な学びとして深化させている同校の取り組みを紹介します。

村下 陽音さん(左)
長安 良春さん(右)
「アイヌ文化」はどのような授業ですか。
長安さん 年間25時間の授業を通して、アイヌの文化について学びます。授業では、アイヌ語を学んだり、伝統工芸であるアイヌ文様の刺しゅうや彫刻に取り組んだりしました。他にも、アットゥシ織りの実演を見て、実際にアットゥシを使ったブレスレットを作りました。さまざまな体験を通じて、アイヌ文化への理解を深めています。
これまでの活動で印象に残っていることを教えてください。
村下さん 町立二風谷アイヌ文化博物館に行ったことです。私は富山県出身でアイヌ文化は教科書で知っている程度だったのですが、生の情報に触れて文化や歴史を学ぶことができました。

アイヌ文化の魅力を教えてください。
長安さん アイヌの方々の考え方です。アイヌの方々は万物には命が宿っており、全ての動物、全ての現象は神様が私たちに恵んでくれるものだと考えていて、その考え方に強く惹かれました。例えば鹿を狩るとき、アイヌの方々は鹿が自ら矢に当たりにいくと解釈しています。鹿が人間に肉や皮を与える代わりに、アイヌの人々は鹿に対して感謝を示して、お酒やおいしいものなどの贈り物をする、という考え方をしています。現代を生きる上で大切な考え方だと思います。
村下さん アイヌの言葉に魅力があります。アイヌ語は文字が残っていません。日本語だと平仮名、カタカナ、漢字があり、それを例えば手紙などにして書くことはできますが、アイヌ語は口だけで伝えられたということに驚きと魅力を感じています。
印象に残っているアイヌ語を教えてください。
村下さん 「ラッコ」と「コンプ」です。今でもアイヌ語としてだけではなく、日本語としても使われている言葉なので。今まで生活していて、アイヌ語発祥の日本語が今も残っているという気付きがありました。
長安さん 「カムイ」という言葉です。「神」を意味するのですが、私たちの認識とは少し違うのだと分かりました。私たちは神を人間を超越した存在だと考えると思うのですが、アイヌの方々が考えるカムイは、決してそうした強大な存在ではなくて、対等な関係だと解釈していると聞いたことがとても印象に残っています。

授業を通して改めて気づいた平取町の魅力を教えてください。
長安さん 伝統工芸が記録としてだけ残っているのではなく、今もなお続いているということです。アイヌ文化博物館にはアイヌの伝統衣装があります。大抵の博物館は「昔の人はこういうのを着ていた」で終わりですが、平取では説明のところに今も平取町で生活している人が作ったと書いてあるのです。文化が過去のものでなく、伝承され続けていることが、町の魅力だと思います。
村下さん 学校に木彫りやアットゥシ織りの職人さんがいらっしゃって、その方たちと直接話せることです。また、博物館では踊りの体験ができるのですが、その時に実際にアットゥシ織りの衣装を着られるのは、平取町でしかできない体験だと思います。

アイヌ文化を理解することで、多様性や共生についてどのような気付きがありましたか。
長安さん 偏見を持たずに学んでみると、意外と私たちと差はないのだと思いました。私は平取町に来てアイヌ文化を学ぶまでは、アイヌ民族は私たちと全く違う考え方や生活をしているのだろうと思っていました。先ほど話したように、アイヌの万物に命が宿るという考え方は、日本に古くから伝わる物を大切にする心にも共通するものがあります。異なる人種・文化の人たちと共生していく上で、大切な学びになりました。